冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
立ち止まり、楽しそうな笑顔をしている夏穂子。その後ろにあるひと際存在感を放つ高層ビル、B.C. square TOKYOへ目をむけたわたしは、「ええっ!?」と後退ったが、夏穂子にがっしりと腕を掴まれていた。

「五十四階にbarがあるの。そこで飲もう」

「待っ……このビルのbarって、居酒屋帰りの女ふたりが行くようなお店なの!?」

「大丈夫、大丈夫。きっと紘奈も気に入るお店だよ」

そう言った夏穂子は、わたしの腕を引っ張りながらグイグイとビルの中へ入って、エレベーターへと乗り込んでしまった。
レストランとbar専用のエレベーターで、わたしたちの他に品のある男女のカップルが乗り、ふたりはレストランの階で降りていった。

その次の階でエレベーターが止まると、bar『ROYAL』というキラキラしたプレートが視界に入り、夏穂子が「ここだよ」とお店のドアを開けた瞬間、高級感のある綺麗な内装にぽうっとして固まってしまった。
落ち着いた雰囲気の店内では、お客さんが楽しそうにお酒を飲んでいて、女性の割合が多く、テーブル席は満席だ。

「すごくお洒落でしょう? こういうお店で飲むのもたまにはいいよね」

夏穂子の言葉にぼやっとしながらうなずくが、慣れない雰囲気にまだ体が動きそうにない。
目をぱちぱちさせていると、店の奥からひとりの男性がこちらにやってきた。

「いらっしゃいませ。……あ、夏穂子ちゃんだ。今日はお友達と来てくれたんだね」

微笑んだその男性は、仕立てのよさそうなスーツ姿で、癖のついた栗色の髪に、整った顔立ちをしている優しそうな人だ。
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