冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
「こんばんは、三坂《みさか》さん。今日はね、大事な友達の紘奈にこのお店を紹介したくて連れてきました」

夏穂子はわたしの肩を掴んで、目の前にいる男性にそう言った。

「それは嬉しいな。はじめまして、オーナーの三坂 純《じゅん》です」

「えっ、あっ、は……はじめまして、嶋本紘奈です……!」

穏やかに挨拶をしてきた三坂さんに対して、わたしは頭を下げながら慌てて返す。自分のまわりにはいないかっこいい人と普段話すようなことなんてないから、言葉も態度もすべて焦ってしまっているわたしに、三坂さんは優しく微笑んで夏穂子へと視線を移した。

「慶一《けいいち》は今月仕事忙しいの?」

「明日、慶一さんと会う約束しているから、そこまで忙しいわけじゃないと思いますけど……」

問いかけに、夏穂子は首をかしげながら答えた。“慶一さん”というのは、夏穂子の恋人の名前だ。

「それならあいつ、大好きな夏穂子ちゃんを優先して俺の連絡後回しにしてるなぁ。今度はいつメシ行けるんだよって、言っておいて」

いたずらっぽくムッとしているよに言った三坂さんに、夏穂子は困ったような照れ笑いをしていて、恋人が自分のことを優先していることを知ってうれしいのだろうなと、隣で見ているわたしは思った。ちょっと羨ましかったり……。

三坂さんに案内されて、カウンターの端から夏穂子、わたしの順で座った。
移動しているとき、テーブル席にいる女性客の視線がやたらと刺さっているような気がしたけど、みんな三坂さんを見ていたのだろう。
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