冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
「三坂さんと慶一さん、大学時代からの友人なの。それでこの前、慶一さんと一緒にこのお店に来たんだ」

「そうだったんだね」

わたしに寄るようにして話している夏穂子はご機嫌だけど、わたしのほうはなんだか落ち着かなくてそわそわしていた。

すると、三坂さんがわたしの横でテーブルに手をついて、「由佐《ゆさ》」とカウンター内にいるバーテンダーの男性を呼んだ。

わたしが座っている席から対角に離れたところでグラスを拭いていた由佐さんという人は、ちらりとこちらを見たあと、歩いて目の前までやってきた。

「なんでしょう?」

首をかたむけながら微笑んだ彼に、ドキッとする。三坂さんとは違ったタイプの涼しげな雰囲気で、さらりとした長めの黒髪に、整った綺麗な顔立ちで優美な仕草をする。店内のお客さんの視線は、三坂さんだけではなく彼にも向けられているようだ。
わたしは彼から目がそらせず、そのまま固まってしまった。

「彼女たちに美味しいお酒を頼む。俺の大事なお客さんだからね。俺は少し裏にいるから、よろしく」

「わかりました」

三坂さんの言葉に由佐さんが微笑んで頷くと、「じゃあ、またあとでね」と、三坂さんはわたしたちのもとから離れていって、同時に由佐さんも途中だったグラスを片付けにいく。
すると、夏穂子がわたしにそっと耳打ちしてきた。

「ねえ、由佐さんっていう人、かっこよくない? この前来たときはいなかったよ。紘奈、こういう美形な人好きだよね……頑張って仲良くなっちゃいなよ」

「……え!? い、いや、なに言ってるのよ、いきなり」

「だって、紘奈だって彼氏ほしいでしょう? 新しい職場での出会いがあるかもしれないけれど、そこだけに期待しないでかっこいいと思った人に積極的になるのも必要だよ!」
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