君が残してくれたもの
そっと開けると、手紙が入っていた。

桜の柄の便箋だ。

色褪せはしているものの、丁寧に書かれた文字がそこには並んでいた。

この便箋を抱きしめたい衝動に駆られたけど、我慢した。


『桜樹へ

淋しくしているだろうなと、思って。この贈り物を未来へ託しました。うまく届いているといいんだけど。あれから、私たち、ちゃんと思い出したよ。桜樹が残したヒントで手繰り寄せて。桜樹とやりたかったことたくさんあったのに、ここに桜樹がいないことが寂しいです。私たちのこれからを、桜樹に見てほしくて、写真も同封しています。桜樹、いつまでも桜樹は私達の仲間です。なずな』


中に入っている写真には、高校生の3人が雪の中で戯れている写真や、バスケ部のユニフォームを着た3人の写真、桜の木の下で撮った写真があった。


これは、卒業式…なんだろうな。胸元にリボンがつけてある。髪の毛を下ろしているなずなに、少しときめいてしまった。

同窓会の写真には、みんな少しだけ垢抜けた雰囲気で、お酒を片手に楽しそうにしている。

なずなが少しお姉さんになった。


スーツを着た写真もあった。
海晴くんがネクタイとか…クスッと笑ってしまう。

でも、かっこいいじゃん。


なにやら大きな玉を持って海晴くんが笑っているけど、これは何?


写真の3人はあっという間に僕を追い越して、大人になっている。

僕だけ、子どものまま…

センチメンタルになりながら、思わず手を止めた。


僕の手元を覗き込んで咲楽ちゃんがポツリと言った。

「結婚式?ですね」

結婚式⁉︎

僕の心がちょっとかき乱されるのを、深呼吸して落ち着かせた。


「海晴め...」


デレデレした顔しやがって。


なずなのウエディングドレス姿がすごく可愛い。

幸せそうに笑ってる。


「ん?」

樹里は大学院へ進学したのか...


植物に囲まれた研究室?


その後、結婚して...


「月丘樹里になりました」


写真に書かれた文字を見て、目を疑った。


樹里の隣りに写る男、


「僕そっくりなんだけど」


しばらく固まっていると、


「ほんと、瓜二つ」


咲楽が写真と僕を見比べた。


まさか、樹里が僕の先祖だったなんて。
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