君が残してくれたもの
「じゃあ、かけっこ」

樹里が望む答えを口にした。


「うん、短距離走ね」


樹里は、頷きながらお弁当のグリルチキンを上品に口に運んだ。

樹里は私にバスケ部に入ればいいのにと、思っている。

もっと、頑張ればいいのにとも思っているだろう。

でも、強要はしない。

私の気持ちを尊重してくれる。


鈍感なふりをして、樹里のそういうところに甘えさせてもらってる部分はある。


「なずな、短距離は速いもんね」

樹里は体育会系だ。

表面には出さないけど、奥深いところにそれを隠し持っている、という感じ。

だから、体育祭は好きで手を抜きたがらない。


「マラソンはダメだけどね」

スタミナがないのが弱点。

でも、そんな長く走ることもないし。

ちょっと走るのが早いとしても、またそれが将来なんの役に立つというのか。


就職の面接で、走るのが早いので見ててくださいとか言って見せるわけでもないし。

君は走るのが早いから、昇給ねってこともないわけだし。


そもそも、いまやってる勉強だって日常生活で活用するようなことはない。


ああ、またぼんやりしてきちゃった。

でも、今日はシャキッとしなくちゃ。


だって、放課後、私には大事な使命があるのだ。

机を捜すという。


放課後を待ち望んだ今日は、いつもより時間が経つのが遅く感じた。


「やっと放課後」

ふうっと息をついて、立ち上がり誰もいなくなった教室の中を見渡した。


教室の中にはない。

机がありそうな場所…

準備室、1階の階段下のスペース。

思い当たる場所を次々と探していくけれど、ピンとくる机がない。

後は…使っていない教室?


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