イジワル御曹司の執着愛~愛されすぎて逃げられません!~
「いや、わかるわよ。あなたが倒れた時、付き添ってくださっていた上司の方でしょう。とっても素敵な方だったし、そのあと結婚式の招待状がうちに届いて、あなた死んだほうがマシって顔をしていたし」
「亜子ちゃん……その辺でやめてあげて。遠子ちゃんひどい顔になってるから」
和美が苦笑しながらテーブルの上にフレンチトーストとコーヒーをふたつ置く。
ふんわりとバターのいい香りがしたが、それどころではない。
失恋がバレていたとは辛すぎる。
「まぁ、とりあえず直倫くんと付き合ってみたらいいじゃない。あくまでもきっかけよ、きっかけ。それでだめだって言うんなら無理強いはしないわ。もちろんそんなことはないと思うけど。じゃあ行ってくるわね」
亜子は新聞を畳んでサッと立ち上がると、
「亜子ちゃんいってらっしゃい~」
「はーい、行ってきます」
それまでキリッとしていた表情を柔らかく一変させ、和美と軽くハグをして、それから愛車のスポーツカーで元気に出社していった。
「――遠子、難しく考えなくていいよ。まぁ、ママは要するに、そろそろ新しい世界に触れてみたらってことが言いたいだけなんだから」
コーヒーカップを持った和美が、しみじみした様子で遠子の隣に座り、顔を覗き込んでくる。