僕に、恋してみたら?


水上先輩の姿は、めったに見かけない。

屋上に足を運ぶことがなくなったし、放課後は学祭の準備で帰る時間がうまく合わないのか、靴箱あたりで目にすることもなくなった。


【単純に、茉帆ちゃんと、明日の昼休みも一緒に過ごしたいと思ったんだ】


あの台詞が、忘れられない。

果たされなかった約束。


「連絡とか、取り合ってる?」

「ううん、知らない……番号も、アドレスも」


知っていたところで、こちらからなにかアクションを起こす勇気もないと思う。


「前に言ったじゃん? 先輩が女遊びやめたって話」

「う、うん」

「なんかね、デートの誘いとか全部断ってるらしいよ」

「そうなの……?」

「前までだと、キスしてって頼んだら、あっさりしてくれてたみたいなんだけど。それも、もうやらないって」

「あっさり……してたんだ」


わたしにも、あっさり、してくれた。


「ごめん、こんな話、嫌だったよね」

「ううん、大丈夫」


わたしは見たことがある。

名前も知らない女の子と、簡単にキスしているところを。


でも、噂は噂。

先輩のことは……やっぱり先輩をみて判断したい。


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