死にたがりは恋をする
「おはよー、よぉ、死にたがりィ!」

 入って来るなり胸ぐらを掴まれ、顎のあたりを殴られた。少し血の味がしたが、別にそこまで痛くもないのが本心だ。

 もう、何度も何度も殴りたおされ、蹴られ、切られ、痛覚なんて無に近くなっていた。だから、痛く、無かった。心さえも、痛覚というものを、失っていたのだ。

 きっと、一番痛いのは、一緒に話していたアクトの、こころだ。アクトは傷つき易いから、僕の分まで、傷ついてしまっている。アクトが傷付くのは、流石に避けたいんだ、親友が、傷付くのは。

「悪党、お前も良くこんなつまらない奴と話せるよなァ。次はお前もイジメてやろうかァ?」

 周りが、息を呑んだ。皆次々に思う。

 共に居ては、いけないんだ、と。

 話しては、いけないんだ、と。

 肯定しては、いけないんだ、と。

 共存したら、自分が傷ついてしまうんだ、と。

「楽しくないって、お前がわかるわけねぇだろ?」

 アクトが叫んだ。否定したら、傷つくのはアクトなのに。

 自分は、守られようと、している。アクトが、犠牲になってまで、守られても、嬉しい訳が無い。共に楽しまなければ、嬉しく成れるはずがない。

「アクト!!」

 アクトが、アクトが嫌われてしまう。避けたい、アクトが、アクトが。

「あ゛ァ?口答えすんのか?」

 胸ぐらの手が、緩んだ。アクトにてを出してほしくない、絶対に!

「やめろアクト!!」

 アクトはその声をきいて、少し微笑んだ。__すべて、すべて終わったような、顔をして。

 そして、餓鬼大将に向かって、目を開いた。
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