あまりさんののっぴきならない事情
「パンはいいのか?」
と訊くと、

「はい。
 食欲なくて」
とあまりは言う。

 なんで食欲ないんだろうな、と心配になっていると、あまりが足を止め、訊いてきた。

「あの、成田さん、大崎さんってご存知ですか?」

「大崎?」

「海里さんのお友だちらしいんですけど」

「いや……知らないが。
 大学時代の友だちとか?」
と訊くと、

「よくわからないんですけど。

 近くのブティックの店長さんなんですが。
 かなりお親しい感じで」
とあまりが曖昧に言葉を濁す。

「じゃあ、知らないよ。
 ブティックの店長なんて、縁がない……」
と言いかけると、ますますあまりがしょんぼりする。

 普通の男は、ブティックの店員とはあまり面識なんてないと言われて、ショックだったようだ。

「あー、ほら。
 あれかもよ。

 海里がお母さんやお姉さんなんかと行って知り合ったのかもよ」

 それはそれで、そこから関係が発展したとか思ったら、まずいか。

 って、なんで僕があいつのフォローを入れてやらにゃならんのだ、と思ったが。

 あまりの元気のない姿は見たくなかった。
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