あまりさんののっぴきならない事情
 失礼します、と頭を下げていこうとすると、
「あまり」
と手招きされる。

 はい? と戻ると、いきなり、腕を引かれ、キスされた。

 ……は? と思っていると、海里はもう仕事に戻っていて、こちらを見ずに、
「挨拶だ」
と言う。

 そ、そうですか。
 そうなのですか。

 了解です……と思いながら、すすすすっと後ろ向きに下がっていき、
「失礼しました」
と海里と固まっている寺坂に頭を下げて、扉を閉めた。

 今のは、成田さんとの間接キスになってしまうような、と思ったのだが、海里には言わなかった。

 さっき、
「でも、今思えば、あのとき、あまりを行かさなかったら、あまりは海里と出会ってなかったわけだよね」

 そう言われて、思わず、想像してしまった。

 海里さんの居ない今の自分と、この先の未来を――。

 全然想像できないな、と思う。

 出会ってまだ一週間も経ってはいないと思うのに、海里さんの居ない未来も今も想像できない。
< 302 / 399 >

この作品をシェア

pagetop