あまりさんののっぴきならない事情
 



 あー、びっくりしましたっ。

 さすが、イギリス育ちの人は違いますっとあまりは思う。

 なにか自分が汚れた女になった気がして、恥ずかしく、コソコソとやってきてしまったのですが。

 なにかそのコソコソ感も吹き飛びました、と思っていた。

 しかし、待てよ、と思う。

 もしかして、イギリス育ちの海里さんにとって、キスって、その程度のことなのでしょうか、と思い、支社長室にお茶を持っていったとき、訊いてみた。

「あのー、海里さ……

 支社長」

 なんだ? と顔を上げた海里に言う。

「私にキスするのって、挨拶なんですか?」

 ぶはっ、と後ろで声がしたと思ったら、北側の見えにくい位置のカウンターの上で、寺坂が書類をそろえていた。

 い、いらっしゃいましたか……。

「す、すみません」
と謝る。

「……莫迦なことを言っている暇があったら、仕事に戻れ」
と海里に言われ、はい、と言いながら、いや、お茶煎れるのが仕事なんだが、と思っていた。
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