あまりさんののっぴきならない事情
「警察に目をつけられてるのがわかっていて、なんで、まだ此処に来てたんです?」
と言うと、

「いや、そろそろ潮時かな、とちょっと思っていたのと。

 此処が――
 気に入っていたから」
と男は言う。

「ほんとはそこの近くの新しいビルを狙ってたんだが。
 ほら、あんたの会社だよ」
と海里を指差し言った。

「此処の店員が中で出張販売してたからやらなかったんだ。
 このカフェに来られなくなると嫌だから」

 目も合ったし、と言う。

「あんた」
と男は成田を振り返った。

「あんた凄いな。
 いつも絶妙のタイミングで動くんだよな。

 あんたの動き見てると、盗みの参考にもなる」

「……お褒めいただき、ありがとうと言うべきなのかな?」
と成田は苦笑いしていた。

 男はガラス張りの店内を見ながら言う。

「いつか店の中でゆっくり珈琲飲んでみたかったんだよ」
と。

 やはり男はいつでも逃げられるようにテラス席に座ってたようだった。

 暑くとも寒くとも。
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