あまりさんののっぴきならない事情
「此処に来たら、なんだかぼうっとしてさ。

 このままぼんやりしてたいなといつも思ってた。

 少なくてもいいから、ちゃんと稼いで、まっとうな金で、休みの日には、珈琲一杯で、店に居座って」

 いや、それはご遠慮ください、と思っていると、

「ほれ」
と男はちょうど側に居た服部の前に手を突き出す。

 言動を見ていて、誰が刑事かはわかるようだった。

 素直に手を出されて、ええっ? と服部は引き気味になる。

「馬鹿っ。
 逮捕だ、逮捕っ」
と後ろで声がしていた。

「あ、では、失礼して」
と何故か、服部は、改まりながら、そっと手錠をかけていた。

 そのまま連れられていく男にあまりは、
「出所されたら、ぜひ、また来てください」
と言った。

「ああ。
 まあ、あんたも頑張って。

 最初に見たときよりは、ずいぶんマシな店員になってるよ」
と振り返り言う男に、

「ありがとうございますっ。
 美味しさで固まるカフェ ゴルゴン。
 またの来店をお待ちしておりますっ」
と頭を下げた。
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