あまりさんののっぴきならない事情
 



「ワンルームの狭い部屋なんですが、もし、よろしかったら、お茶でもどうぞ」
とあまりが手で示したのは、立派なマンションの建物で。

 いや、このシリーズの部屋を見たことがあるが、全然狭くなかったと思うんだが、と海里はそのマンションを見上げていた。

 やっぱり、こいつ、ちょっと感覚が違うな。
 よくあの店で働けているものだと思う。

「あまり」
と呼ぶと、はい、と言う。

 いきなり名前で呼ばれても、嫌がるようにはなかった。

「荷物が多いから、部屋の前までは運んでやるが、お茶はいいからな」
と言うと、また、はい、と言う。

「……簡単に男に部屋に上がれとか言うなよ」

 そう言うと、あまりは、きょとんとした顔をしていた。

 ピンと来ていないようだ。

 家を出てから二ヶ月くらいか。
 よく無事だったな、と思った。

 危険な奴が周りに居るだろうが。

 成田とか、成田とか、成田とかっ……と思いながら、あまりの部屋の前まで通してもらった。

 簡単には入れないセキュリティのしっかりしたマンションだが、まあ、どんな手を使っても入ってくる奴が居るからな、と思う。

 なんだかんだ理由をつけて、此処まで上がりこんできた自分のように――。



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