午前0時、魔法が解けるまで。
「――薫、くん」
砂川さんのおでこに手を伸ばして、思わず私は小さくつぶやいていた。
名前を呼ばれた砂川さんは一瞬大きく目を見開いて、それから花がほころぶように笑って瞳いっぱいに涙を浮かべた。
「俺のこと、思い出してくれた?」
「うん。全部思い出したよ、薫くん。今まで忘れていて……あなたに気付かなくて、ごめんなさい」
かつてのようにそう呼べば、砂川さんは私に覆い被さるように抱きついてきてそのまま玄関の方に引きずり込まれる。
はからずも砂川さんの胸に飛び込むことになり、砂川さんの甘くて爽やかな香りを胸いっぱいに吸い込みながら背後で扉が閉まる音を聞いていた。