楕円の恋。
『もう無理〜。俺持久力ないんだって』

田中先輩がグラウンドに倒れこむ。

『田中後半分。』

片桐先輩は腰に両手当てて、上を向いてハァハァ肩で息をしている。

『30秒後スタートです!』

私は大きな声で言った。

『しゃーっ!!!』

田中先輩は叫んで、ゆっくり立ち上がった。

『残り半分!残り半分!後半戦だ!』

片桐先輩が手を叩いて、みんなを鼓舞する。

決められた時間内にゴールラインとゴールラインの間100メートルの往復を1本として20本走る。

通称GGダッシュ。ゴールゴールダッシュ。時間内にゴールできなかったらペナルティーで残りが1本ずつ追加される悪魔のメニューだ。

私達のサッカー部の1日練習の午前中はボールを触らない基礎体力と筋力アップの練習である。

その最後の練習としての悪魔のGGダッシュがあるのだ。

『30秒後ラストです!皆さん頑張ってください!』

私は今日1番の大きな声でみんなに言った。

『しゃーっ!ラスト!ラスト!』

田中先輩は膝に両手をついて下を向きながら叫んだ。

『田中。顔を上げろ。余計きついぞ。』

片桐先輩さんも汗をダラダラながし、苦痛の表情で言った。

『5、4、3、2、1スタートです!』

『うらぁーっ!!!』

選手全員が叫んで走り出した。

、、、

、、、

『残り30秒です!』

三分の一の選手がまだゴールできていなかった。

田中先輩も必死で走っていた。

『ほら!遅れたらもう一本だぞ!』

先にゴールした片桐先輩がウォーターボトルの水を飲みながら叫ぶ。

『10秒前!9!8!』

私が叫ぶ。

『うらぁーっ!!』

田中先輩が叫びながらヘッドスライディングをした。

『0!』

なんとか全員間に合った。

みんなハァハァと呼吸が荒く、その場に座り込んでいた。

田中先輩は仰向けになって目をつぶり、大の字で寝転んでいた。

私はみんなにボトルを持って行こうとした時、

ヒョイっと私が持っていたウォーターボトルを片桐先輩が持って行った。

そして、おもむろにボトルの蓋を開け

『バッシャーン!』

片桐先輩が田中先輩の顔の上でボトルをひっくり返し、水をかけた。

田中先輩は最初びっくりしたようだったが、すぐニッと笑って

『サンキュー片桐。生き返ったわ』

田中先輩は体をむくっとおこし、片桐先輩にすっと手を出した。

片桐先輩はその手を握ってグッと田中先輩を引き起こした。

2人の絆の深さが垣間見えた瞬間だった。

『じゃあ飯食って2時まで休憩〜。解散!』

監督の一言で、選手がぞろぞろと部室へ帰って行った。
< 41 / 72 >

この作品をシェア

pagetop