楕円の恋。
あかりちゃんと田中先輩の仲を取り持った私は影山君に全く連絡先を聞くことができず、ついに夕方のHRの席替えの時間を迎えてしまった。

『じゃあ席替えするぞー。出席番号順にくじを引きに来い!引いてもまだ見るなよ!みんなで一斉に開けるぞ〜』

担任の声に圭子ちゃんはバンザイをしている。

『先生!懲役終わりました!』

『ははは。俺はお前にはもう一回ぐらい懲役をくらって欲しいけどな』

圭子ちゃんは先生と冗談を言い合っている。

『今井さん、この特等席終わっちゃうね』

影山君から話しかけられた。

私は振り返り、

『ほんと残念。この席ちょー良かったのに。寝ててもバレないし』

『俺には今井さんが寝てるのバレバレだったけど。特に数学の時間。』

『数学嫌い。わけわかんない。私は文系にすすむ。英語好きだから。』

『そうなんだ。俺はまだちょっと悩んでる。行いたい大学は理系科目でも受けれるし』

影山君が窓の外に目をやった。

『もう行きたい大学とかあるの?すごいね?私なんかそんなのまだないよ。』

『昔から行きたいと思ってたんだ。努力しなきゃ無理だけど。じゃあ、ちょっくらこの席取り戻してくるわ』

そう言うと、影山君はがたっと席を立ち教壇の方へ歩いて行った。

『多分取り戻せた気がする』

影山君はグッと親指を立てて帰ってきた。

『ほんと〜?絶対嘘だ。』

『諦めなければきっと叶う。これ俺の座右の銘』

『そんないい言葉、席替えごときに使わないで。じゃあ私もこの席取り戻してくるね。』

私は笑いながら席を立って教壇へ向い、
くじの入った袋をかき混ぜ、これだ!と思った一枚を取った。

『なんか私も取り戻せた気がする!』

私も席に戻りグッと親指を立てた。

『それと、あ、あのね。席離れたら話すこと少なくなっちゃうと思うからね、その、もっとラグビーのルールとか知りたいから、これ私の番号とアドレス。』

私は勇気を振り絞ってケータイの番号とアドレスを書いたノートの切れ端を影山君に差し出した。

影山君はそっと受け取り、

『ありがとう。部活終わったらメールするわ。
でも、俺はここの席、今井さんはその席取り戻したはずだから。今までと変わらないよ』

影山君は笑顔で言った。

私はその笑顔を見て少しドキドキした。
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