そのキスで、忘れさせて
しーん……
再び沈黙が舞い降りた。
国道を走る車のエンジン音だけが聞こえる。
そして、通り過ぎる車のヘッドライトが、暗がりの彼を照らし出した。
彼は目深に帽子を被っていた。
そして、春らしいブルゾンのポケットに手を突っ込んでいる。
怪しい、いかにも怪しい人物だ。
だけど、自暴自棄のあたしは思った。
この人に刺されてしまえばいい。
全て無かったことになればいい。
あたしがいなくなれば……
少しは誠、悲しむのかな。