そのキスで、忘れさせて
「人の失恋なんて、俺には関係ねぇけど……」
暗がりの彼はあたしに言う。
「アンタ、なかなかいい女じゃねぇか」
「馬鹿にしないでよ」
鼻で笑ってやる。
いい女?
そう、あたしはいい女を演じてきた。
誠に好かれるように。
でも、その努力も水の泡。
この暗がり男はあたしの不幸を笑っているのだろうか。
ありったけの敵意をこめて、彼を睨んだ。
だけど、彼の顔はおろか、姿さえしっかり見えない。
そんな状況のなか、彼は言った。
「付き合ってやろうか?」
「……は?」
耳を疑う。
何考えてるんだ、この男。
だけど彼は、再び言った。
「付き合って、やろうか?」