ドメスティック・ラブ

 大急ぎで着替えて顔を洗い、簡単にメイクを済ませた時点での時刻は七時五十六分。作って食べて片付ける朝食の手間がなければ、朝の準備なんて三十分もかからない。
 言われた通り着替えを入れたバッグをリアシートに積んで、まっちゃんの運転でマンションの駐車場を出た。一番近所のコンビニでテイクアウトのコーヒーとサンドイッチを買うと、高速の入口方面へと向かう。

「千晶、サンドイッチ開けて」

「はあい。ねえ、行き先決めてないって言ってたけどどこ行くの」

 ミックスサンドのフィルムを開けて中の一つをまっちゃんの顔の前に差し出すと、ハンドルから手を離さないまままっちゃんが齧りつく。買ったのはクラブハウスサンドとミックスサンド。シェアしようという事になったので、半分食べたら交換だ。

「そうだなあ、東西南北どっち行きたい?」

「え、そこまでアバウト?」

「いいんだよ、適当で。その方が楽しいだろ」

 食べさせている内に小さくなってきたサンドイッチを受け取って指に挟み、ニヤリと笑ってまっちゃんがハンドルを左へ切る。
 この交差点の先が高速の入口だ。中に入った所で行き先毎に車線が分かれるのでどちらへ行くか決めなくてはならない。

「じゃあ……北?」

「よし、じゃあ北な」

 何かこれという目的がある訳じゃない。私が完全にフィーリングで言ったにも関わらず、まっちゃんは迷わず車を北へ伸びる路線へと向けた。高速に乗ってしまったらもう途中で行き先変更は出来ない。どうやら本当に行き当たりばったりのドライブをするつもりらしい。

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