ドメスティック・ラブ

「しまちゃん、さっきのスピーチ感動的だったよー」

「ホント、泣くさとしまコンビなんて初めて見たし、私思わずもらい泣きしちゃった」

 今度は席が離れていた先輩達が私を見て声をかけてくる。
 二次会のプログラム、ひとしきり余興が終わった後で真打ち、メインイベント的位置に配されたのはまさかの私のスピーチだった。新郎の会社の同僚女子と共に二次会の幹事を任されていたよっしーの仕業だ。前に居酒屋で語っていた時は実現するなんて思ってもいなかったから焦ったし一度は拒否したけれど、結局はよっしーの勢いに押し切られた。
 一ヶ月近くかけて必死に内容を考えたスピーチは、クールで通ってきた花嫁と、読んでいる元気印娘の普段は見せない涙の競演を誘い、思いがけず感動的でゲストに好評だったらしい。泣くのは私の予定にはなかったので物凄く恥ずかしかったけれど喋り終わった時には盛大な拍手をもらったし、席に戻ったら周りの友人達にも褒められた。
 このスピーチが終わるまではと気を張っていた私は、朝起きた時からずっと続いていた緊張からようやく解放されて宴の終盤にお酒をガブガブと流し込んでしまい、現状少しだけ酔っ払っている。そう少しだけ。

「余興どれも凝ってたし楽しかったけど、ただの宴会じゃなくてウエディングパーティーなんだしああいう場面もないとね。その辺さすがよっしー抜かりないわあ」

「いやもうガチガチに緊張してたし、半端に泣いちゃったし、めっちゃ恥ずかしいです……内輪で盛り上がり過ぎて新郎側友人とか置いてけぼりになってませんでした?」

「んな事ないない、大丈夫大丈夫」

 一番不安だった点を確認すると、先輩達が笑って太鼓判を押してくれたので安心する。まあさとみんがあれだけ感動してくれたんだし、それを優しく見守ってハンカチを差し出す新郎を皆の前で披露できたんだから役目としては確かに充分かもしれない。終わったぞという解放感に加えて充実感で気分は良い。

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