ドメスティック・ラブ

 このぎこちない結婚関係の愚痴や相談だって、今後私は誰にしたらいいんだろう。楽しい企画を思いついても、一緒に盛り上がるさとみんがいないんじゃどうしようもない。
 大学卒業後、地元に帰ったり転勤したりで遠くに離れてしまった友人は他にもいる。人生の選択は人それぞれで、それに連れて毎年少しずつ会えなくなる人が増えていく度に寂しかった。それでも実家暮らしで転勤のある仕事でもないさとみんは、何となくずっとこのままでいられるような気がしていた。もちろん私の勝手な思い込みだ。だからこそ多分今私はこんなに凹んでいる。

「ああ、もう!」

 まっちゃんは黙り込んでしまった私を見ると、手に持った布巾と皿を水切りカゴに置いて私の頭を引き寄せた。

「十年以上の付き合いだし、今まで散々千晶の世話は焼いてきたけどさ」

 片手で私の頭を撫でながらまっちゃんが言う。

「お前の泣き顔って実は初めて見た」

「……泣いてなんかっ……」

 反論しようとしたけれど、その声は紛れもない鼻声だった。
 自分でも認めてしまった瞬間、涙腺が一気に緩んで目から涙が溢れ出す。頬を伝って流れたそれは、まっちゃんのTシャツの胸に染み込んでいった。

「ふられた時も卒業式でも結婚式でも泣かなかった癖にここで泣くのかー。まあ予想はしてたけど、敵わないなあ、さとみんには」

 子供をあやす様に、軽く笑いながらまっちゃんが私の頭を優しく叩く。その一定のリズムが何だか心地良い。
 そして頬に触れるTシャツからは、私の服と同じ柔軟剤の香りがする。その事に気づくとふっと力が抜けて、主に涙と鼻水のせいによる息苦しさが少しだけ軽減された。
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