10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
今晩のメニューは肉じゃが。形の歪なじゃがいもだが、何度も味見をしたから多分問題はないだろう。
ご飯は炊き上がるまでに時間がかかるため、仕方なくパックのものにした。
味噌汁をよそい、待っている春兄のところへ持って行く。
「春兄おまたせ〜!はい、今日のメニューです!」
メインの肉じゃがを最初に差し出した。野菜がたっぷりで彩りがいい。
「お、美味そうだな。いただきます」
ほくほくと湯気が立ち上る。口に運ぶ春兄の反応が気になり、その様子をじっと見てしまった。
「ど、どうかな?」
すると春兄はゆっくりと微笑む。言葉はないがその反応だけで安堵した。
「ん、すっごい美味いよ」
「よかった〜!」
テレビをつけてほどよいノイズが部屋の中を流れる。久しぶりに春兄との間の穏やかな空気に
安心感を覚える。
夕食を食べ終え、食器を洗っている私の背後に気配を感じた。
「春兄どうしたの?」
手元を覗き込んでくる春兄に首を傾げると、洗剤で汚れを落としてあとは水で流すだけの食器たちを手に取った。
私は最後にまとめて流すタイプだから、こうして食器をためているのだけれど…
「俺が流すよ」
水道の水を出して洗い物を進める春兄。『これは私の仕事だから!』と慌ててその手を止めようとするが、聞いてくれなかった。
「一緒にやった方が早いだろ?それに俺、少しでも長く藍と居たいんだ」
「春兄…」
春兄の優しさと温かさにこれ以上NOとは言えなかった。だって、私も同じだから。
「私も春兄と居たい」
水が流れる音にかき消されるくらいのか細い声。その言葉が拾われることはなかったが、しばらく流れる優しい時間にずっと浸っていた。
気づけば時計の針は22時を指していた。春兄と居ると時間が経つのが早く感じる。
「もうこんな時間だね」
「そうだな」
二人がけの小さなソファに並んで座っている。テレビではお笑い芸人のトーク番組が始まり、今年ブレイク中のピン芸人、リズムネタで世間を旋風している女性芸人など出演している芸人は様々だ。
時折リアクションしながらテレビに夢中になっていると、突然パッとテレビ画面が真っ暗になった。
「えっ…」
視界に入った春兄の左腕。手元にはリモコン。春兄がテレビを消したんだとすぐにわかり、彼の方を向く。
「見てたのに〜…」
ムッと口を尖らせると、春兄は私の手にそっと自分の手を重ねた。
今まで意識しないようにしていたのに、これから始まるであろう事に体の熱が上がっていくのがわかる。
「は、春兄?」
私の目を真っ直ぐと見つめる春兄。だんだん近づいてくる顔に自然と目を閉じる。
唇に温かな感触。いつもはこれで終わりなのに、それは深くなっていく。こんなの初めてだ。
気づけば春兄の腕はしっかりと私を支えていて、私は酸素が薄くなりぼーっとなっていく体を春兄に預けていた。
どれだけ経っただろうか、そんなこと考える余裕が無いほど夢中になる。やがて離れた唇、そして見える春兄の顔。艶やかなその表情は、いつもの"春兄"ではなく"大人の男性"そのものだった。
「…藍、俺いつまで待っていればいい?」
核心をつくその問いに、覚悟を決めるべきだと悟った。流れに身をまかせるように、私は無言で頷く。