【短】スウィートドーナッツ


私が名乗ると、その女の先生は、職員室の机の上から何かを抱えて戻ってきた。

その腕には、ホットミルクティーと白い便箋。



「美央さん。私、新しく来た数学の先生なの。」




―――え?




目の前が、真っ白になった。


新しい数学の先生……って。

この人、何を言っているの。


私の数学の先生は、沖田先生だけ。



大好きな、先生だけ。



「どういうことですか……?」



本当は、もう分かっていた。

ただ、その現実が私には大きすぎた。



「沖田先生、違う県の校舎へ移動になったの。」



そう言われた瞬間、私はその場にしゃがみ込んだ。

そこが予備校だということも忘れ、呆然とした。


泣き虫美央のクセに、涙が出ない。



その女の先生は、優しく私の肩を抱え、話を続けた。


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