副社長は束縛ダーリン

彼はお兄さんというよりおじさんだし、メタボ体形で、引きしまった体でもない。

それでも、美女からの褒め言葉を嬉しく思ったようで、すぐにマシンから降りると、「どうぞ使ってください」と快く譲っていた。


「いや〜、あなたのようなスタイルのよい美人さんでも、トレーニングするんですね。
僕は田中と言います。差し支えなければ、あなたのお名前もーー」

「差し支えあるのよ。ごめんなさいね。
邪魔になるから、どこかに行ってくださる?」


ひ、ひどい……。

マシンを譲ってくれたら、もう用済みとばかりの態度を取る彼女に呆れていた。

息が弾む程度の低速で走りつつ、半開きの口で右隣を見ていたら、彼女と視線が合ってしまう。

フンと鼻を鳴らした後に、口元に微笑を浮かべる彼女は、私と同じホノルルコースを選んで走り出す。


そのスピードは、私の二倍くらい。

『そんなに飛ばして大丈夫なの?』と目を見開く私だったが、彼女は涼しい顔で走り続けていた。


すごい。アスリートみたい……。

無理のないスピードで、長く走ろうと思っていた私だけど、気づけばつられたように、足の動きを速めていた。

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