副社長は束縛ダーリン

「朱梨さん……でよかったわよね?
あなたの名刺もいただきたいのだけど、お持ちかしら?」

「いえ、今日は仕事じゃないので持ってきていません……」


目を泳がせたのは、本当は名刺自体、持っていないから。

今まで必要になったことはなく、末端の開発部員を続ける限り、今後もきっと名刺は不要だろう。

それでも持っていない事実に『今日は』と付け加えてしまったのは、自分を恥ずかしく思っているせいだ。


フィットネスクラブで植えつけられた劣等感が、膨らむような心持ちでいる。

私は私のままでいいと思い直し、無理していい女を目指すのをやめたばかりだというのに、また焦り始めている。

私もなにか努力しないといけないんじゃないかな……。


名刺代わりに彼女の手帳に名前と連絡先を書かされて、「それでは私はこれでーー」と立ち去ろうとしたが、「待って」と引き止められた。


「私、この後のスケジュールは空白なのよ。せっかくの機会だから、お茶を飲みながら話しましょう?」


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