副社長は束縛ダーリン
だから、今日はもう来ないはず。
野田さんもそれを分かって『手伝って』と言ってきたのかもしれない。
どことなく気を抜いているような、穏やかな顔をしているから。
野田さんと一緒に調理台のひとつに移動して、「はい」と渡されたレシピ表を読む。
材料は、男爵芋四個、玉葱四分の一、豚挽肉百二十グラム。
それと、ドライトマトとナチュラルチーズと、バジルと……。
野田さんの新作レシピは、タネの中にチーズとバジルソースを仕込んでおくという、中々の変わり種だ。
油で揚げたときに、溶けたチーズと、ドライトマトとバジルの香りが漂う、イタリア風のお洒落なコロッケを作りたいらしい。
「面白いですね」とジャガイモの皮を剥きながら隣に声をかけると、野田さんは「チャレンジレシピだよ」と照れくさそうに笑った。
開発室に、穏やかな時間が流れ行く。
班長の三上さんと男性ふたりは、各自のデスクで静かにパソコン作業をしている。
泉さんは私の後ろの調理台を使用していて、数種類の甘味料を前に、考えの中に沈んでいる様子。