【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
「産まれたときから御曹司として育ってきたわけですが、最初から決められた人生に疑問はなかったんですか?」
役員室の応接セットで新聞記者から投げかけられた嫌味を含んだ質問に、ソファーの後ろに立って聞いていた私は、思わず眉をひそめた。
しかし専務は少しも気を悪くした様子もなく、小さく肩を上げてみせる。
「残念ですが、御曹司として育てられた自覚が少しもなかったんです」
「そうなんですか?」
専務の言葉に、新聞記者の四十代くらいの男性が疑うように少し身を乗り出す。
「小さい頃から贅沢とは無縁の育てられ方をしてきましたから。小遣いは周りの友達よりも少なかったんじゃないかな。働かざる者食うべからず、という父の教育方針で足りない分は働けと言われていたので、よく兄と家の手伝いをしてお駄賃でもらった小銭を握りしめて、ふたりで近くのお店で肉まんを買って半分こしたりしていました」
「綾崎グループの御曹司が、肉まんを半分こ?」
目を丸くした記者に向かって、専務は首をすくめ人懐っこい笑顔を浮かべる。
笑うとくしゃりと目尻が下がる、あの愛嬌のある笑顔。
「自分が働いてもらったお金で、こっそり買い食いするのがとても楽しかったのを覚えています」
「こっそりだったんですか?」
「こっそりです。夕食前におやつを食べると怒られたので」
記者の方に顔を寄せ、声をひそめてそう言った専務に、向かい合っていた記者が小さく笑った。
それまで、若くして大企業の専務になった御曹司に反感を抱いていた記者から、毒気が抜けていくのがわかる。