【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 
「英会話や行儀作法は教え込まれましたが、それ以外は放任主義で、小さな頃から会社を継げと言われたことは一度もありませんでした。兄は昔から父の仕事に興味を持っていたみたいですが、自分は全く。それどころか、何代も続く会社にあまり魅力を感じられなくて、自分はなにか新しいことをしたい、なんて生意気なことを思っていました」
「じゃあ、どうして綾崎グループに?」

そう問われ、専務はソファーに軽く座り直した。
それまでの和やかな空気を変えるように、自然に背筋を伸ばす。
専務の声のトーンが微かに落ちる。落ち着いた、よく響く声。

「私が大学に通っていた時に、台風で各地に大きな被害が出たことがありまして」

その言葉に、記者が記憶を探るように少し首を傾げた。
その頃高校生だった私が暮らしていた地元も、その台風の大きな被害を受けたから、今でもしっかりと覚えている。大雨を降らす台風で、あちこちで川が反乱し、土砂崩れがおきた。

「鉄道に大きな被害が出て、あちこちで物流が途切れてしまったんです。被災地に物資が届かないことが大きく取り上げられていましたが、その裏で生産地から農作物が出荷できないと多くの農業関係者も悲鳴を上げていました。一年かけて丹精込めて作った野菜が、出荷することもできずに廃棄するしかないのかと嘆く中、父は『うちで全部引き受ける』と近くの港に貨物船を乗り付けて、行き場のなかったコンテナをガンガン詰め込んで、全国に出荷したんです」

専務のその言葉に、記者が小さく息を漏らす。

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