【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 

畑や田んぼだらけの田舎町。
あぜ道を歩いていると、道端の草むらで鳴いていた鈴虫が一瞬黙り、妙に静かになる。


花火大会を見るために千葉くんと待ち合わせた河川敷まで、そわそわしながら歩いた。
日が落ちるとともに急に風が強くなり、畑の脇に沿って植えられた防風林が、ゴウゴウと音をたてていた。
薄暗い空に黒い木の陰が大きく揺れて、まるで生き物みたいに見えた。


待ち合わせは六時。
だけどその時間を過ぎても、千葉くんは現れなかった。

心細くて、何度も時計を見ては周りを見回す。
周りにいる人達は、みんな笑顔で楽しげで、私ひとりだけがぽつりと取り残されているような気がした。

『あ、冬木さんだ』

そう後ろから声をかけられて、振り向けば同じクラスの女の子が三人、私のことを見ていた。
咄嗟に会話を思いつくほど親しくもない相手に、戸惑いながらぺこりと頭を下げる。
おとなしい私とは違い、いつもクラスの中心にいるような明るいグループの女の子たちだった。

『え、意外。冬木さんが浴衣着てるー』
『うける』

クスクスと笑われて、途端に恥ずかしくなって俯いた。
藍色の浴衣の袂をぎゅっと握りしめる。

 
< 131 / 255 >

この作品をシェア

pagetop