【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
『なになに。もしかして智紀と待ち合わせしてんの?』
『待っても無駄なのに』
『来るわけないじゃん』
『かわいそー』
どういう意味だろうと顔を上げると、またクスクスと小さな笑い声。
『智紀から電話で頼まれたんだよね。約束の場所で本当に冬木さんが待ってるか見てきてって』
『え……?』
私が驚いて顔をあげると、女の子たち楽しげに笑う。
小さなさざ波のようなその声が、不快で仕方なかった。
『冬木さんが本気で智紀とデートできるって信じてちゃんと待ってるかどうか、賭けでもしてるんじゃない?』
その言葉に、ようやく気づいた。デートなんて嘘なんだって。
私はただ、からかわれて騙されていただけなんだ。
『智紀が冬木さんと本気で付き合うわけないじゃん』
『からかわれてるだけだって、気付くよね普通』
『だってあの智紀が、冬木さんなんかを好きになるわけないって』
川の下流から強い風が吹いて、轟音をたてながら大きな空気の塊が体にぶつかった。
藍色の浴衣がパタパタとはためいて、キレイに結った髪が乱れた。
河川敷の道に並んだ提燈が、ガラガラと音をたてて忙しなく揺れる。
それに合わせて足元の影も揺れていた。