【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
 

その影をぼんやりと見下ろしていると、ぽたりと水滴が地面を濡らした。
そのひと粒をきっかけに、堤防が崩れたように空から絶え間なく大粒の雫が落ちてきた。

あっという間に地面が水浸しになる。
私は雨に濡れながら、声を上げて散り散りに走っていく人の姿を、ぼんやりと眺めていた。


その日、近づいてきた台風に秋雨前線が刺激され、町は突然の大雨になった。
予定していた花火大会も、中止になった。


そして、結局千葉くんは待ち合わせの場所に来ることはなかった。


家に帰ってようやく、携帯電話を忘れていたことに気がついた。
机の上に置いたままの二つ折りの携帯電話。着信を知らせるランプが灯っていたけど、とても開いてみる気にはなれず、びしょぬれのままベッドの中に潜り込んで、体を丸めて少し泣いた。
足元で、ハチがいつもとは違う私の様子に、心配そうに寄り添ってくれていた。


その夜はずっと、ひどい雨が窓を叩き続けていた。




雨は止むことなく勢いを増し、物流は途切れ土砂崩れで道路は寸断され、町の面積の大部分を占める田畑は甚大な被害を受けた。
花火大会の会場だった河原には濁流が押し寄せ、流れ着いた倒木の先に赤い提燈が忘れ去られたようにひとつだけ引っかかり揺れていた。


 
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