【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
珍しく険しい顔の専務に、どうしていいのか分からずに思わずトレイを持ったまま立ち止まった。すると専務の長い腕がこちらに伸び、トレイの上のグラスを攫った。
節ばった指がグラスを掴み、形の良い唇に運ぶ。綺麗な顎から首のラインに浮かぶ喉仏が二、三度上下し紅茶を飲み干す。そして不機嫌そうな表情でこちらを見下ろしながら濡れた唇を、手の甲でグイと拭った。
その色っぽさに、めまいがするかと思った。
「ありがとう。昼のミーティングの件、頼むね」
低い声で短くそう言って、空になったグラスを私の持つトレイの上に置き、専務が踵を返す。
背の高いその後姿をぼんやりと眺めていると、グラスの中で溶けた氷が崩れ、カラリと音をたてた。
その様子を見ていた秘書室の上司、戸村室長が呆れたようにため息をつく。
「冬木、無愛想もいい加減にしろよ」
その言葉の意味が分からず、私が無表情で振り向けば、戸村室長は眉をひそめて口を開いた。
「専務から物をもらって大袈裟に喜べとは言わないけど、迷惑ですよねなんて言われて否定しないのは失礼だろ」
「あ……」
室長の言葉に目を見開く。
確かにさっきの私の態度は、好きでもないものをもらって迷惑だから桃井さんに譲ったみたいだ。
「それから、桃井も専務に対して馴れ馴れしすぎだ。立場をわきまえろ」
「はぁい」
桃井さんは室長の言葉に、元気よく返事をしてにっこり微笑む。その可愛い態度に室長はやれやれと苦笑いする。
その様子を見ながら、桃井さんの半分でも、いや十分の一でもいいから、あの愛嬌と可愛げがあればいいのにとうなだれた。