【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
へたくそな猫の絵が描かれた缶詰を見下ろしぼうぜんとしていると、専務がこちらに近づいた。
猫をあやすような仕草で、長い指で私の頬をなでる。
「思い出した?」
そう静かに問われ、俯いたまま頷く。
十年間に一度、専務と会っていたなんて、すっかり忘れていた。
台風の混乱と、千葉くんから言われた言葉のショックが強くて、あの時の記憶が曖昧になっていた。
「専務は、十年前に会ったこと、ずっと覚えていたんですか?」
「詩乃ちゃんが俺の秘書になって、はじめて役員室に入ってきた時に、すぐに気づいたよ」
「教えてくれればよかったのに……」
「俺はしっかり覚えてるのに、完璧に忘れられてるのが悔しかったから」
そう言って、意地悪に笑う。
「あの時、土手で話してた彼氏ってのが、千葉くんくんのこと?」
そう問われ、顔をしかめたままコクコクと頷いた。