【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
その素っ気ない不器用な態度に、十年前を思い出した。
台風の大雨で増水した灰色の川。倒木に引っかかって揺れる赤い提燈。自分のことを可愛くないと強い口調で言った、不器用な女の子。
あの子だ。
そう思って、信じられない偶然に思わず笑みが漏れた。
「なにか?」
俺が口元に手をやって俯いていると、彼女は背筋を伸ばしたまま、微かに首を傾げる。
後ろでひとつに結んでいる黒い髪が、華奢な肩の上でサラリと流れた。
「いや。可愛いなと思って」
手で抑えた口元から、思わずぽろりと本音が漏れた。
俺の言葉に、彼女が驚いたように目を見開く。
「君は、可愛げがなくなんかないよ。優しいし可愛いよ」
いつか言った言葉を繰り返してみせると、彼女は動揺を隠そうとするように慌てて顔をそらした。顔を隠したかわりにこちらに見えた白いうなじが、一気に赤く染まった。
十年前と同じ、不器用で初心な反応に思わず目を奪われる。
「では、私は秘書室におりますので、なにかありましたらお呼びください」
動揺を必死に隠した無表情でそう言って、彼女は役員室から出ていった。
静かに扉が閉まるのを眺めていると、扉の向こうで微かにコツリと音がした。
なんの音だろう。
彼女が去った後に聞こえたその小さな音が、やけに気になった。