【溺愛注意!】御曹司様はツンデレ秘書とイチャイチャしたい
「シャンプーかえた?」
「専務には関係ありません」
「相変わらず、冷たいな」
私のぶっきらぼうな返しに、専務は少しも気を悪くすることなくいつのもように明るく笑う。
私がどんなリアクションをしようが、彼にはどうでもいいことなのだ。
「では、失礼します」
小さく会釈をして踵をかえすと、背後から声をかけられた。
「詩乃ちゃん」
「はい」
「いつもありがとう」
振り返れば、穏やかな笑顔でそう言われた。
「いえ、仕事なので」
抑揚のない声でそう答え、無表情で軽く会釈をして役員室を後にする。
パタン、とダークブラウンの木目の扉が閉まった途端、扉にもたれかかり大きく息を吐き出した。
さっき専務の鼻先がふれた辺りの髪を、ぐしゃっと掴む。
こみ上げるのは動揺と後悔。
もっと可愛い気のあるリアクションがとれたらいいのに。もっと上手に笑えたらいいのに。もっと気の利いた言葉を返せたらいいのに。
そう思えば思うほど、私の表情は強張って、愛想がなくなっていく。
「……うーっ」
こんな自分が嫌になって、小さく唸った。
私が仕える上司は、なんというかとても、とんでもない人なのだ。
とんでもなく、魅力的な男。
はぁーっともう一度大きく息を吐きだし、気を引き締め直し秘書室へと向かう。
今日も一日平常心で乗り切ろう。そう自分に言い聞かせながら。