ビターチョコをかじったら
「松山くんも仕事、慣れてきたかな?」
「はい。雨宮さんが丁寧に教えてくださるので…。」
「雨宮さんは後輩育成の素質もあったんだね。もっと早くから人材育成に回ってもらえばよかったなぁ。」
「いえっ!私なんかまだ全然ひよっこで…。」
「そんなことないよ。雨宮さんはほぼ最初から即戦力みたいな子だったと思うなぁ。松山くんも、雨宮さんから盗めるところ、たくさんあると思うからたくさん盗んで頑張ってね。」
「はいっ!」
「仲が良くてよかったよ。ギスギスした人間関係だと、仕事も辛くなっちゃうからね。」

 部長はそう言って微笑むと、別のデスクの社員に声を掛けに行った。

「部長も優しい方ですよね。」
「ね。それに人のことをよく見て、きちんと仕事をする方だよ。…かっこいいよね。」
「え…。」
「あれ、なんかおかしなこと言った、私?」
「いえあの…雨宮さんって、部長のことが好きなんですか?」
「人として好きだけど、それは尊敬であって恋愛とかそういうのではないかな。」
「…そう、なんですか。」

 相島はブラックコーヒーをすすった。冷めていて、あまり美味しいとは思えなかった。少し機嫌が悪くなった自分を感じて、ぐっとこらえる。仕事に私情を挟んではいけない。たとえ、自分の彼女が、自分の見えるところで他の男と話していてもだ。そこまで心が狭い男であっていいはずもない。
 相島は紗弥の存在を隠すつもりがなかったが、紗弥の方はバレたくないという一点張りだった。その理由は未だに教えてもらっていない。
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