ビターチョコをかじったら
* * *

「…こんばんは。…あの、だいじょ…。」

 言い終わらないうちに、ぎゅっと抱きしめられる。

「…ごめん、私何かしちゃった…?」
「他の男に優しくした。」
「それ、相手が松山くんだとしたら不可抗力なんですけど…。」
「知ってる。ごめん、さすがにこんなに心の狭いやつに自分がなってるとは思わなかった。」
「…何か変なことして、怒らせちゃったのかと思った。」
「怒ってないって言ったじゃん。」
「そうだけど、喜んでもない声だったから!」
「…はー…ほんと、だっせぇ…。」
「何が?」
「色々とだせぇ。とりあえず…。」

 相島がそっと離れた。

「あがって。なるべく今日はここにいて。」
「…昴くんがそれで落ち着けるなら、今日も泊まろうか?」
「明日仕事、大丈夫?」
「えっ、待って。…何するつもり?」
「…いや、さすがに今日はしないけど。」
「…で、でしょ…び、びっくりしたよ…。」
「明日はしないって断言できないけど。」
「っ…。」

 紗弥の頬が熱くなる。それを見つけた相島は小さく笑って、紗弥の手を取った。

「2泊分の荷物、取りに行こう。一緒に行く。仕事着も持ってくればここから行けるじゃん。」
「…う、うん。」

 相島は躊躇いなく、紗弥の手を取ってくれる。それが嬉しくて、本当は紗弥の方が相島を元気にするために来たはずなのに、紗弥の方が元気をもらってしまっている。
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