ただ、そばにいて。
 瑞希はうずくまっている悠斗の前にしゃがみこんだ。
 そして手袋をはずし、マフラーに半分埋もれた頬にそっと触れた。
 月明かりに青白く浮かびあがる頬は、凍りかけたように固く、冷たい。

「生きてる?」

 肩がぴくりと動いた。どうやら死んではいないらしい。

 悠斗は伏せていた睫毛をゆっくり押し上げた。
 ぼんやりしながらあたりを見まわし、瑞希の顔のところで視線をとめる。

「瑞希……さん」

 悠斗はかすれた声で、瑞希の名前を呟いた。

「よかった。死んでるのかと思った」

 家の前でみっともなく眠り込んでいる姿を見られて恥ずかしくなったのか、悠斗は軽く頭を下げると、ふたたび膝に額をうずめるようにしてうつむく。

「とりあえず、なかに入って。コーヒーくらいは淹れてあげる」

 瑞希の言葉に、悠斗は視線をわずかに上げる。
 捨てられた仔犬のようだ。

「……いや、いいです、ここで」
「いいわけないでしょ。こんなところにいられると、私のほうが困る」

 恐縮する悠斗に向かって、瑞希はほほ笑んだ。

 ふたりの視線が、少しのあいだ絡み合う。
 ほんの数秒のあいだに、悠斗の瞳にはいろんな感情が浮かび上がった。
 戸惑い、不安、そして、救われたという安堵感。

 悠斗は小さな声で「すみません……」と謝り、よろよろと立ち上がった。
 瑞希より頭ひとつぶん背が高いのに、背中を丸めているせいか、やけに頼りなく見える。
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