ただ、そばにいて。
 悠斗の半歩前を歩き、玄関の鍵を開ける。
 明かりをつけ、来客用のスリッパを玄関に並べた。
 左側にあるドアを開いてなかに入ると、二十畳のリビングはひんやりしていた。
 暖房を強にする。
 それから、電気ポットのスイッチを入れ、コーヒーを淹れるための湯をわかす。

 悠斗は大きなボストンバッグを抱えたまま、玄関で立ち尽くしていた。

「そんなところに立ってないで、あがれば」

 瑞希は玄関先に向かって声をかけ、ふたたびリビングに戻る。

 昔からこんなにおどおどした子だっただろうか。
 見た目は地味だが、中身はしっかりした印象だったのに。

「……おじゃまします」

 ゆらゆらした足どりで悠斗は歩いてくる。

 コートを預かろうとして手を伸ばし、瑞希ははっとした。
 悠斗の体は、死人のように冷たかった。
 おどおどして見えたのは、寒さで動けなかったせいらしい。

 捨てられた仔犬のような哀れな姿に、瑞希のなかで同情のようなものが芽生える。

 瑞希はキッチンに戻り、濡らしたタオルをレンジで温めた。
 そして淹れたコーヒーと一緒に悠斗に差し出した。

 悠斗はホットタオルを広げて顔にあてる。
 そのままじっと顔を温めたあと、今度は両方の手をタオルでくるんだ。
 少し体温が戻ってきたようだが、悠斗の体はまだ震えていた。

「もうすぐお風呂が沸くから、それ飲んだら入りなさい」
「え、でも……」
「旅行に行く予定だったんだし、着替えはあるんでしょ?」

 ためらっている悠斗の背中を押すように、なかば無理やり浴室に向かわせる。
 これは人助けなのだ。
 そんなふうに自分自身に言い聞かせながら。
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