ただ、そばにいて。
「いまごろ柚月たち、どうしてるんだろうね」

 悠斗の肩に鼻先をこすりつけながら、瑞希は問いかけた。
 今日の昼間に出発した飛行機は、いまごろどこの空を飛んでいるのだろう。

「残念だったね。楽しみにしていたのに」

 行くことが叶わなかった旅行なのに、なぜか悠斗の表情はすっきりしていた。
 悠斗は天井に向けていた視線を瑞希に移し、やわらかく笑いかける。

「正直言うと、二週間も仕事を休んでまで行かなきゃならない旅行なのかって、ずっと悩んでて。だからキャンセルになって、本当はほっとしているんです」

 五人のなかで仕事をしているのは悠斗ひとりだ。
 あとの四人のメンバーは時間を持て余している学生たち。
 立場の違う悠斗を誘うほうも誘うほうだが、引き受けてしまう悠斗も、付き合いがいいのか流されやすいのか。

 でもそれは悠斗自身が一番感じていることらしく、「もっと早く気付けってかんじですよね」と口をゆがめて笑った。


「今日の夕ご飯、ものすごくおいしかった」

 仕事から帰ってきたとき、すでに食卓には夕食の用意がされていた。
 卓上コンロの上に土鍋がひとつ。
 ふわりと食卓に舞う湯気を見て、リビングに入ったとたん瑞希は思わず笑顔になった。

「あれはお見舞金だったんだから、悠斗くんの好きに使ってくれてよかったのに」

 だが悠斗は自分のものは買わず、瑞希が置いていったお金を夕飯の食材費にあてた。

「ちゃんと好きなものに使いましたよ。料理が趣味なんです」

 悠斗の料理の腕前は相当だった。
 家庭菜園部のころから上手だとは思っていたけれど、専門学校で学び、実際に店でも修行を積んでいるだけあり、やはり料理好きの素人とは別格である。
 肉団子にはいろんな素材が混ぜてあり、野菜の種類も多く、塩味のスープはとろりとしていた。
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