ただ、そばにいて。
 湯気の立つ鍋を囲みながらビールとチューハイで乾杯した。
 意外にも悠斗は相当なビール党だった。

「祖母の家が小料理屋だったから、お客さんがビールを美味しそうに飲む姿に憧れてて。日本酒や焼酎の銘柄も結構詳しいですよ」

 悠斗は人気どころの銘柄をいくつか挙げた。

 そういえば、鍋料理を食べているとき無性に日本酒が飲みたくなった。
 瑞希がそう打ち明けると、「じつは僕も」と悠斗は笑った。

「もともと料理に興味があって、それで家庭菜園部を作ったんです。素材に凝りだしたら止まらなくなっちゃって。採れたての野菜って、それだけで美味しいんですよ」

 味を引き出すコツを楽しそうに話す悠斗は、昨夜の哀れな仔犬のような姿とはまったく違っていた。

 春にはこんな野菜を植え、収穫が終わると別の野菜の苗を植える。
 暑さに強いもの、日光に弱いもの。
 最近では季節の果実を使って、自分で果実酒も作っているのだそうだ。

 悠斗があまりにも楽しそうに話すので、瑞希の頬も自然と緩んだ。

「柚月はそういうこと話さなかったなぁ。水やり当番のときは、朝早く出かけてたみたいだけど」

「みんないろいろ忙しかったみたいだし。でも収穫のときと食べるときだけは、やたらと張り切ってましたけどね」

 高校時代の五人の様子が目に浮かぶようだ。
 普段は簡単な手伝いしかしないのに、収穫して食べるときだけは、自分の手柄のように浮かれ騒ぐ。

 顔を横に向けると、ちょうどこっちを見ていた悠斗と目が合った。
 同じことを考えていたのか、顔を見合わせて同時に吹きだした。
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