ただ、そばにいて。
「あのころの柚月は学校のなかでも特別な存在で、僕みたいなのが仲良くしてもらえるなんて、とても信じられなかった」

 悠斗は目を閉じながら懐かしそうに笑みを浮かべる。

「もしかして、柚希のことが好きだったの?」
「好きっていうのとは違うけど……気になってはいました」

 その感情を「好き」と言うのではないか。
 けれど瑞希は、続きの言葉を聞くのはやめた。


 まるで修学旅行の夜のように、仕事のこと、趣味のこと、十二時をまわるまでずっと、ふたりでいろんな話をした。

 それまで男と一緒に寝るということは、イコール体の関係になることだった。
 隣に座って一緒にDVDを見たり、おしゃべりをしながら眠りについたりという経験は初めてで、友達として男女が夜を一緒に過ごす行為がとても新鮮に思えた。

 月の明かりと、あたたかなベッド。
 瑞希のなかにあったのは、とても穏やかな感情だった。

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