ただ、そばにいて。
 大雑把な片付けを終えて部屋を出ると、篠崎がトラックの荷台に不要品を積み込んでいるところだった。
 店にあった装飾品は、焦げついたがらくたに変わり果てている。

 悠斗の部屋から出た廃棄物も、一緒に捨ててもらうことにした。

 ゴミとなってトラックの荷台に積み上げられる、見切りをつけられた、思い出の山。


 荷台がいっぱいになると、篠崎は「サンキュ」と言って隣のビルにある自動販売機で缶コーヒーを買ってくれた。

「おまえはどうするんだ、これから」

 驚いて篠崎のほうに向き直ると「この店はもう無理だろ」とトラックに積み上げられたゴミの山を見て篠崎が笑った。
 絶望も限度を超えると笑うしかないのだ。

「この店が再開するまで、待ってちゃだめですか」

 ダメもとで言ってみた。でも返ってきた言葉は、予想通りのものだった。

「そう簡単にいくか」

 篠崎は怒ったように言い捨てたあと、缶コーヒーを飲み干した。

 店を再建するには莫大な費用がかかる。
 保険屋の査定は終わったはずだが、篠崎の態度から判断すると、あまりよい結果ではなかったのだろう。

 それでも悠斗はあきらめたくなかった。
 この店は、悠斗の唯一の居場所なのだ。

 この店ができた当初のことを悠斗は知らない。
 とても小さなビストロだけれど、結構な借金をしてオープンさせたと聞いた。

 もう一度はじめからやり直すというのは、篠崎にとって負担の大きいことなのかもしれない。
 しかも火事の後始末もある。
 マイナス地点からのスタートだ。
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