最後の恋
私の住むアパートの前にタクシーが横付けされた。


私の後に続いて一度降りてきたタケに今日のお礼を伝えようと向き合った。


「タケ、今日は本当にありがとう。久しぶりに会えて嬉しかったし、話も聞いてもらえたお陰で気持ちが楽になったよ。明日は、何時の…」


新幹線に乗るの?そう聞こうと思った時、またいつものアレを感じてハッと顔をその方向に向けた。


もちろん、振り向いた視線の先には誰の姿も見えなかった。


ただ所々に街灯の灯された真っ暗な道が続くだけだった。


そして私の異変に気付いたタケが私の視線の先に何かがあるのかと、深妙な顔を向けた。


彼の目にも私の目にも映っているのは同じ、夜の住宅街に延びる薄気味悪い細い道。


彼はまだ、その方向を見ている私の両肩に手を置くと


「どうした?杏奈…誰かいたのか?」


と心配の滲んだそんな声で私の肩を揺さぶった。
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