最後の恋
彼には今週は用事で実家に戻るとだけ聞いていた。


その用事が何なのかは分からない。


さっきからソファに座り込み黙ったままの彼を横目に、タケを見送った私は浴室に向かった。


なんだか疲れたから、シャワーではなく湯船に浸かりたくなったのだ。


浴室にも大きな窓が付いていて綺麗な夜景が見おろせた。


バスタブのヘリに腰掛け張られていくお湯を眺めながら彼女の事を思い出していた。


このホテルでタケと一緒のところを見られたのは、私が知る限りでは彼女しかいない。


しかも、紫乃は私とタケの仲を誤解している様子だった。


もし一ノ瀬君が彼女の口からそれを聞いていたのだとしたら…………


最悪のシナリオが否定しても拒否しても頭の中に浮かんできてしまう。


「杏奈?」


なかなか戻ってこない私を心配して様子を見にきた彼が、浴室の入り口に手をつき入り口を塞ぐように立っていた。
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