最後の恋
「…怒ってないよ。」


驚いたように顔をあげた紫乃の目が私の真意を探るように見つめる。


「2年になったあの日、クラス表のどこにも紫乃の名前がなくて何度も何度も確かめたの。何かの間違いだろうって思いたいのに紫乃の姿がどこにも見えなくて…すごく不安でいても立ってもいられなくって。紫乃の携帯にかけたらもう解約された後で…縋るように1年の時の担任だった西本先生のところに行ったの。そこで紫乃が転校したって聞いた。誰にも言わずに転校する事が本人の望んだ事だって事も。友達だと思ってたのは私だけだったのかってショックは受けたけど…紫乃の事を許せないとかそんな風に思ったことは一度もなかった。」

「杏奈…」

「寂しくて悲しかったけど、心のどこかではそれを望んだ紫乃の気持ちも本当は分かってたの。」


確かに…私はどこかでは気づいていたのだ。


紫乃がいなくなって様々な噂を耳にして、100%それを信じたわけじゃないけど彼女にとって辛い事があったのは確かだったから。


それを思った時、私が彼女の立場でもそうするだろうと…本当は理解してた。


「本当はね、杏奈にだけは言いたかったの。でも結局言えなかった…。」

「うん…分かってるよ。あの時、春休みの終わりにお土産持って来てくれた日…あったよね。あの時は、私も子供すぎて気づけなかったけど、本当は何か伝えたいことがあったんじゃないかって後になってそう思えるようになったの。」


「…ありがとう。そして、ごめんね。」


涙を流す紫乃に、私はハンカチをそっと差し出した。
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