最後の恋
私の秘密のあの時間を、紫乃が知っているとは…思わなかった。


「あれもきっと、杏奈に会いに行ってたんだと思う。堂々と会いに行ける場所は図書室しかなかったんだろうね。私は最初から、礼央の優しさにつけ込んで付き合ってもらってただけの彼女だったの。」


彼女の話が本当だとしたら…いや…本当だとしても何かが変わるわけではないけど。


誰にも彼女は責められないし、責めるつもりもなかった。


「私ね…入学式で初めて見た一ノ瀬君に憧れて、気づいたら好きになってた。だけど、紫乃のことも大切な友達だった。一ノ瀬君が紫乃の恋人だって知った後も彼のことは好きなままだったけど、あの頃は見てるだけで満足だった。ただ…大切な友人に好きな人のことを言えなかったこと…友人の彼氏を好きになってしまったことに罪悪感はずっと感じてた。」

「ごめんね。私が見てみないふりをしていたから、杏奈を苦しめてたんだよね。」

「ううん…違う。紫乃のせいじゃないよ。紫乃を裏切っている自分を知られるのが怖かったの。」


大切な友人を失いたくなかった。
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