レス・パウダーレス
わたしは思い出していた。
並んで歩く二人に重ねて、自分が、あのくらいの年頃だった時のことを。
制服のヒダスカートが、膝上で揺れていた時期。
当時のわたしには、とても好きな男の子がいた。
その子とは、クラスが一緒だった。
わたしたちのクラスの出席確認は、朝のホームルームで一人ずつ名前を呼ばれ、返事をするという仕組みのものだった。
……その時の、返事が。
ハイ、と短い、一瞬だけの、その時に聞ける彼の声が、わたしはなぜか、すごく好きで。
気になり始めたきっかけは、と問われれば、それは間違いなく『声』だった。
ズン、と胸に沈むかんじの、例えようのない響きに、わたしは惹かれてしまった。
そうして彼のことを目で追うようになると、それだけじゃない。色々な面が、次々に見えてくるものだ。
普段は落ち着いているのに、体育の時だけははしゃいで、顔全体をいっぱいに使って笑うこと。
シャーペンを握ったまま、ばれないように居眠りをするのが、すごく上手なこと。
HBの芯なのに、筆圧が強くて、2Bくらいの濃い文字を書くこと。その文字は角ばっていて、右上がりであること。
運動靴のメーカーは、ナイキ。かかと踏まずに、ちゃんと履くこと。
照れているときは、首の後ろをかくクセがあること。
知れば知るほど、好きになっていった。
彼の行動は、わたしの胸をいちいちつついては、痕を残して。