溺愛御曹司は仮りそめ婚約者
私の事情は、お偉い様たちには説明済みだそうだ。“入籍はまだだが、病気のおじい様のために撮影も兼ねて結婚式をする。
おじい様は仕事関係のことは知らず、普通の結婚式だと思っているので余計なことは口にしないように”と。
さらに、“近々、入籍予定”だと言ってあるらしい。なんだ、近々って。これ以上ないってくらい逃げ道を塞いでいるくせに、まだ足りないのか、あの人は。
「そろそろお時間ですよ。行きましょう」
私の支度を手伝ってくれた森田ウェディングのスタッフさんに声をかけられて、立ち上がる。
主任には、まだドレス姿を見せていない。欧米には、挙式の前に花嫁と新郎が会ってはいけないという風習があるらしい。なんでも縁起がよくないとされているのだとか。
それに習ってなのか、衣装合わせのときも一緒には行ったがドレス姿は「当日を楽しみにしてる」と、見ようとしなかった。どういう反応をされるのか、ちょっと怖い。
レストランとは別に建てられた控え室を出て、綺麗に敷き詰められた芝の上を歩く。
写真では見ていたが、実際のレストランを見るのは初めてだ。
レストランの入口まで続く石畳の上を歩いていくと、じいちゃんが待っていた。
「おお、沙奈。綺麗だなぁ。すごく、綺麗だ」
「じいちゃんも、かっこいいよ」
モーニングを着たじいちゃんのうれしそうな顔に、私も笑顔になる。それにしても……。